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zoom RSS 稀代のボクサー 【酔いどれ前のひとりごと vol.123】

<<   作成日時 : 2009/07/27 23:00   >>

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vol.123 稀代のボクサー


 試合当日のコンディションを決定するいちばんの要因は何か、前々から気になっていた。

 試合に負けると、オーバーワークだったとか減量に失敗したとか風邪をひいていたとか拳を痛めたとか、聞くことがある。それらが当日の調子に影響するとしても、リングにあがるほどのボクサーなら、それなりの鍛錬でそれなりに仕上げてきていると考えたい。

 ともかく、ゴングが鳴って出ていったら・・・

 思いのほか体が動く
 パンチが当たる
 スタミナが切れない


 逆に・・・

 体が重い
 パンチが出ない
 あんなに練習したのにバテる


 そういうことは何に起因しているのか。

 相手や客のことを考えすぎて心身のバランスが崩れたり、それらは考えるには考えるがそれよりもべつの何かを見るために心身を高揚させていくような、相反する構造が人体にはあって、時に応じて人それぞれ、崩れや高まりが顔を出す。

 だから、一般にプラスと考えられることを勝負時に出せるように日々練習をする。しかしその練習には本当の敵がいなくて、本番で初めて敵が現れて異様な雰囲気にもなる。そして、さてどうするか・・・ということになってくる。

 もっと単純に、勝因は

 相手が強くなかったから自分の思うようにできた
 練習も積んだけど、敗因は相手が強かったから自分の思うようにできなかった


 練習は積んでも、すべては相手次第。相手との力量の差、相性の良し悪し。勝ち負けについて見るなら、それだけのことじゃないか。

 けれども力量とか相性というのは抽象的ゆえに厄介で、力量の差を計ったり相性を見たりするのはたぶんにメンタルで、これをきちんと解明できる人は専門家でも脳科学者でもまずいない。

 解明できたら、いろんな分野で失敗のない計算通りの常勝の世界ができあがっているはずだから。そもそも、解明できるんだったら勝負はやる前からわかっていることになる。

 と、とりとめのない空想をしていたら、7月2日夜、アレクシス・アルゲリョの訃報が入った。7月1日に拳銃自殺したらしい。

画像 なにがあった
 なぜ死んだ
 死んでしまった
 自ら命を絶ってしまった――


 そんなリフレインが数日間、僕にはあった。死にたかったんだろう。

 こんなことになるんだったら、もっともっとあなたを見て、もっともっとあなたについて語るべきだった、なんて、センチなことしか浮かばない。

 1975年10月12日、WBA世界フェザー級タイトルマッチでアレクシス・アルゲリョは来日し、ロイヤル小林の挑戦をうけた。

 18戦16KO無敗、当たるをさいわい、対戦相手を倒しまくってきたように見えた小林だったが、初めての世界戦であがってしまったのかもしれない。公開練習で王者の強さを目の当たりにしていたからなのかもしれない。

 リングに立って、対峙する王者を見て、見ただけで、世界にはこんな凄い選手がいるのかと思った、というような感想をどこかで漏らしていた。小林の本能のアンテナが強い電波をしっかり捉えていたとの感がして、僕には忘れがたい。

 アレクシス・アルゲリョ、あなたもまた星になってしまった。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

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