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zoom RSS 「石の拳」一代記! 【酔いどれ前のひとりごと vol.137】

<<   作成日時 : 2013/09/03 21:50   >>

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vol.137 「石の拳」一代記!


 ロベルト・デュラン「石の拳」一代記はノー・マス事件から始まる。

 この稀代のボクサーをおおやけに語るうえで、試合放棄というショッキングな顛末にまず触れた著者に僕は安心して、だから終わりまで読むことができた。

画像 もっとも、あの試合、常識とか道徳とかそんなんで考えちゃうと小難しくなりそうだけど、試合をしたくなくなっちゃったっていう――で、負ける演技もできなくて、っていう、そんだけのことじゃねえかなって、おっきな声じゃ言えないけど。

 読後いちばん印象深かったのはチャフランだった。

「10代も後半に差しかかるまで、ロベルトの人生で最も重要な男は、父親でも継父でもなかった。カラフルでぼろぼろの服を着て、いつも笑顔を浮かべたキャンディド・ナタリオ・ディアス。通称チャフランだった。絶えず貧乏で、定職を持とうとしなかったこのジプシーは、パナマのエリート階級たちが最も嫌うタイプの男だった」

「チャフランが行くところにはどこでも、デュランをリーダーとする子供たちの集団がついて行った。デュランにとって、家を持たずとも逞しく生きるその男はヒーローだった。他の人間たちから相手にされないスラムの子供たちをチャフランだけは見捨てない。根無し草がゆえに父親代わりにはなれなかったが、“その気になれば何ごとも可能だ”とデュランに教え込んだのはチャフランだった」


 雑誌や映像で見たデュランの故郷、パナマシティ郊外のスラム街が浮かぶ。

 今はもうチャフランも当時のスラム街も消え失せてしまったが、貧民窟を闊歩する一群を、デュランのデュランたる原風景を、来春公開予定の同名映画はどんなふうに表現するのか楽しみ。

 それにしても石の拳とはうまいネーミングで、パナマのボクシング記者がつけたと今回知って長年のつかえがおりた。このニックネームがさらにボクサーをその気にさせて、活躍の後押しをしたようにも思えてしまう、いやもう抜群の命名。

 その石の拳デュランは名立たるボクサーたちと戦ったが、僕にとって残念だったのはアレクシス・アルゲリョとの対戦が実現しなかったこと。アーロン・プライアーとも拳を交えなかった。勝敗はどうあれ、もしもデュランが二人と戦っていたら、アルゲリョもプライアーも、リングを降りてから、より充足した時間を持てたのではないか、その後の歩みが違っていたのではないか、と、幼稚な空想がかすめて、なぜって、それはどうぞ本書を読んでみてくんなましです。

 敏腕マネージャーだったルイス・スパダは、デュランのベストファイトはレナード第1戦ではなくハグラー戦だと言っているが、どうだろ。自分が手掛けたファイトだからそう言うんじゃないのかなあ。

 僕はエステバン・デ・ヘスス第3戦だなあ。262ページには二人が抱き合う写真があって言葉につまるが、ベストファイトとは何ぞやみたいな話になると面倒臭くて付き合う気はないけど、デュランの長いキャリアの中でカナメのファイトに思えるし、観衆やリングも含めて全体の絵姿がいいというか、ボクサーの動きもナチュラルで結末も強烈だったし。でもまあホントは、今、適当に選んでみただけだったりして。

 この試合を区切りにデュランは階級を上げ、当然だが年齢も上がっていって、激しい浮沈の、時には無謀としか思えない、異次元ファイトに突入していった……僕にはそんな感じ。

 1968年2月にデビューして、ライト級12度防衛のあと、ウェルター、ジュニアミドルも制して、1984年6月トーマス・ハーンズに初のKO負けをして、引退となった。・・・・と思うから『遥かなるデュラン 〜ロベルト、あるいは燃えつきた戦士〜』と題したボクシングマガジン増刊号も出た。

 デュラン、御苦労さん。ありがとう。

 誰もがそう思ったはず。

 ところがどっこい、時間軸で言えば、そこはまだ折り返し点だったなんて、それからまだ17年間もリングに上がっていたなんて、その間ミドル級も奪って、誰が思いますか、そんなこと。これじゃ、せっかく総力をあげて増刊号を出したボクシング・マガジンさんの面目が立たないじゃないですか、と思いつつも僕は「遥かなるデュラン」続編を待つことにしました。

 誰かのフレーズじゃないけど、あれから30年、ようやくロベルト・デュラン「石の拳」一代記が出たんだね。待った甲斐がありました。

 ファンやマニアだけでなく広く読まれたらいいなあ。あの試合この試合、デュランはなぜ勝ったか、なぜ負けたか、たくさん書いてあるし、おお、そうだ、デュランの好みの女性についても書いてあるぜ。だから、スマホの手をちょいと休めて、ベイビー、読んでみて、くれませんか。


▽バックナンバー
vol.136 目の前の人――勝間和雄
vol.135 天国のボクサー
vol.134 幸運な偶然+ボクシングへの思い=?
vol.133 大晦日の横浜文化体育館・W世界戦
vol.132 長谷川穂積の言葉
vol.131 女あるじ
vol.130 オールド・ファッション・ボクシング〜12
vol.129 ストレート・フェチ
vol.128 内藤vs.亀田を見て .....
vol.127 いやんなっちゃうぜ
vol.126 ハグラーvs.レナード――強者と勝者
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vol.121 オールド・ファッション・ボクシング〜11
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vol.118 オールド・ファッション・ボクシング〜9
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vol.111 オールド・ファッション・ボクシング〜3
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vol.107 粟生惜敗で思い出す「女神」…つづき
vol.106 粟生で思い出した「女神の機嫌」
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vol.104 がれき
vol.103 大場政夫の強さについて
vol.102 ずるずる負け
vol.101 たわごと・ざれごと・えそらごと Part 3
vol.100 日本最高試合その3
vol.99 日本最高試合その2
vol.98 日本最高試合その1
vol.97 たわごと・ざれごと・えそらごと Part 2
vol.96 たわごと・ざれごと・えそらごと
vol.95 追放
vol.94 ゴキブリ発言
vol.93 辰吉、魅惑の3番勝負
vol.92 それぞれの落日
vol.91 運の悪い男
vol.90 ロッカールーム
vol.89 重箱のスミ〜2006年12月号
vol.88 重箱のスミ〜2006年11月号
vol.87 アウトがセーフ
vol.86 重箱のスミ〜2006年10月号
vol.85 ラウンドガールは飯島愛
vol.84 重箱のスミ〜2006年9月号
vol.83 夢の始まりは…
vol.82 重箱のスミ〜2006年8月号
vol.81 拳聖ふたたび
vol.80 重箱のスミ〜2006年7月号
vol.79 重箱のスミ〜2006年6月号
vol.78 重箱のスミ〜2006年5月号
vol.77 重箱のスミ〜2006年4月号
vol.76 重箱のスミ〜2006年3月号
vol.75 悪いのはだれだ? おれだ…
vol.74 オサム会長はおっきいのがお好き
vol.73 重箱のスミ〜2006年2月号
vol.72以前 夜明け前,カメダ・ワールド,重箱のスミ〜2006年1月号,逆転の貴公子,ほんの少しの恐怖,ジャブを出せ,ガッツ石松 vs ロベルト・デュラン〜もちろん架空〜エキジビション,最強という名の幻想,年間最高試合について,これぞ伝説,アリ、フレージャー、そしてフォアマン,だけどファイティング原田は好きだった,なんとなく空想対決[G.フォアマン vs B.サップ],拳聖....etc.


■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。


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