連載:鈴木成章の“なんとなくマニアック” vol.17 [池原繁尊インタビュー]その3

《文科系ボクシングマニア・ライフワークの記》

vol.17 “特濃ボク汁”インタビュー
[第2回:池原繁尊]
・その3
横浜光/日本ライトフライ級7位)



※その2はこちら


 WBA世界ミニマム級チャンピオン・新井田豊(横浜光)、OPBFミニマム級チャンピオン・八重樫東(大橋)、そして2008年・北京五輪を狙う亀田三兄弟の“最終兵器”亀田和毅-----。

 実はこの3人、すべて池原がリングの上で対峙したボクサーたちだ。もちろん同門の先輩である新井田や、アマチュアデビューもしていない亀田和毅と試合をするわけはないので、これはすべてスパーリングでの話。とはいえ、錚々(そうそう)たるメンツである。

「亀田和毅くんとやったのは、彼らが千葉にあるウチのジムの合宿所に来たときです。感想は、うーん…彼もまだ子供といって差し支えない歳でしたからね。ただやっぱり、年齢を考えたらスゴいものだったと思いますよ。

 八重樫とは、大橋ジムでやりました。アマチュア出身の選手ってディフェンスに長けている印象が強かったんですけど、思ったよりはぼくのパンチが当たりました。ただ、さっき言った脚を使って回り込んでのボディアッパーとか、ワンツーはさすがでしたね。ワンツーなんて、ホントにモーションなしで飛んできますからね。あれは避けづらいでしょうね。

 スパーが終わった後、大橋会長から『きみの判定勝ちだね』って誉められたんです。でもね、大橋ジムってリング狭かったんですよ。だからぼくみたいなファイタータイプに有利なんです。逆に八重樫みたいなフットワーカーは力を発揮しにくい。そういうことも関係していると思うから、それで戦力を比べて云々っていうのはあまり意味がないし、おれのほうが強かったなんて吹聴する気もないですけどね。

 新井田さんは、当たり前だけど世界チャンピオンなんですよね。この間の防衛戦(ロナルド・バレラ戦)の前にパートナーやらせてもらいました。(新井田のトレーナーの)及川さんからは特に『こんな感じで攻めてきてくれ』みたいな注文もなく、こっちはこっちで金さんと作戦を打ち合わせながらやりました。

 やってみて感じたのは、まず、ディフェンスが本当に巧い。それからハンドスピードとカウンターのタイミング。どういうタイミングとアングルでカウンターが飛んでくるかわからないから、不用意にパンチ出せないんですよね。怖いですよー(笑)。八重樫と比べてどうか、ですか? そりゃやっぱり新井田さんの方が上でしょうね。あの試合も『どうしたんだろうな』って思いながら観ていましたけど、後で聞いたら酷いコンディションで。それでも勝つのはさすがですよ。

 身近に世界チャンピオンがいて、実際にスパーやらせてもらえるのは恵まれていますよね。『世界』のレベルを肌で知ることができますから。いまの自分に足りないものを感じ取って、練習に活かすことができる環境には感謝しています」


 あれもこれも聞きたがるインタビュアーの矢継ぎ早の質問に、ひとつひとつ答える雄弁な姿に感心。単なるファンとして「ほー」とか「へぇ」なんて反応するやりとりは、けっこう楽しい。

 世界チャンピオンと日本チャンピオンが1人ずつ。そして、5月に日本タイトルに挑むフェザー級の小林生人。そう遠くない将来、日本タイトルを狙おうというライト級の石井一太郎。A級トーナメントを制したバンタム級の臼井欽士郎・・・

 池原の所属する横浜光ジムは、いまもっとも勢いのあるジムと言っても過言ではないだろう。そんなジムの雰囲気を、池原は気にしたことがないという。

「試合があれば観に行くし、仲間が勝てば嬉しい。そういうのはもちろん、ありますよ。ただ、大切なのは自分が強くなることだから。今度、(新人王で同期だった)小林が日本タイトルやりますよね。それも『小林、よかったなあ』くらいのもので。小林も『俺ってツイてるなあ』なんて言ってるくらいですから(笑)、ジムに変なピリピリした空気もないんじゃないですか?」

 ところで彼が師事する金昌龍トレーナーは、日本スーパーライト級チャンピオン・木村登勇のトレーナーでもある。木村の自由奔放なボクシングから、影響を受けるということはないのだろうか。

「気さくないい先輩ですよ。よく話もします。ただ、木村さんのボクシングって真似できないんですよ(笑)。サウスポーだってこと以前に、あれは“木村さんだけのスタイル”ですよ。ぼくのスタイルは、基本的にはファイターですよね。アウトボクシングするタイプじゃない。金先生とも話すんですけど、『やっぱり池原は自分からプレッシャーかけていくタイプだよね』って。でも、ただガンガン前に出るだけのファイターでは先が知れています。だから、ときには脚を使ってひと呼吸置いたりとか、そういったことは必要に応じてやります。『技術のあるファイター』が目指すスタイルですね。そういうボクシングを金さんと一緒に作り上げて行こうと思います」

 池原や木村の試合では、ゴング前に必ず行われる「儀式」がある。金トレーナーが選手の胸に手を当て、両腕を開いての、大きな深呼吸。

「あれがないと始まらないっていうか…。傍から見ている人からも信頼関係がわかるって言ってもらえます。金さんって絶対、頭ごなしに叱ったりしないんですよ。納得できないことや理解できないことは、たとえばミット打ちの途中でも、手を止めてディスカッションしてくれるんです。だから、モヤモヤしたものを引きずったままにすることも、ない。ただ、注意されてもなかなか直らないところなんかは、あとでボソッと言われますけどね(笑)」

画像 次の試合は5月23日(火)、後楽園ホール。対戦相手は初めての外国人、初めてのサウスポーだそうだ。

「日本人相手の方が盛り上がるんでしょうけどね。ジムもそう思ってマッチメークに動いてくれたんですけど、今回はタイの選手です。それもサウスポー(笑)。やったことないんですよ。スパーで瀬川(正義=同門の日本ライトフライ級9位)とやるくらいで。やりにくいんですよね。お互い様子見ちゃうし、上手く攻め込めずに体がぶつかっちゃったりして。でも、次の試合ではスパーの経験が生きると思います。気を抜かずにKOで勝ちます」

 堂々のKO宣言だ。

「プロは倒してなんぼだと思います。だから、『勝てるかどうかわからないけど一生懸命やります』みたいなことは言いたくないんです。派手な舌戦はぼくには必要ないけど、お客さんあってのプロボクシングだし、KO宣言して試合を楽しみにしてほしいですからね」

 いいこと言ってくれる。

「だから試合前の注意のときも、ぼくは必ず相手を見るようにしています。そのほうが、お客さんも盛り上がるでしょう。それで相手が目を逸らしたりすると『勝った』って思うんですよね(笑)。計量のときも必ず相手を見ます。体つきとかサイズとか、ビデオやデータだけでは、なかなかちゃんとはわからないものですから」

 ところで、去年の暮れに4位だったランクが7位になっていることについては気にならないのだろうか。日本タイトルへの順番待ちに、割り込まれてしまったわけで…。

「それ(日本タイトル)が最終目標だったら、たしかにムカつくかも知れませね。でも、もっと先に目標を置いていますから。ぼくは別に、順番待ちをしている意識はないので、焦りも苛立ちもありません。今年、何試合かしながらじっくりと全体的なレベルアップをして、来年は日本タイトルをやりたいですね。まずは日本タイトルを取って、世界を目指したいと思います。挑戦する機会がないのなら、日本王座を迂回して世界ランカーとやるのも、ひとつのやり方だとは思います。でも、ぼくはまず日本タイトルを取って、日本一を証明してから世界に挑みたいと思っています」

 強い向上心とマイペース、それは一見、矛盾しているようにも思えるがそうではない。地に足のついた性格を示しているのだと感じた。一つひとつ、階段を上りながら世界へ向けて歩を進める過程を見届けたい。インタビューを終えて、そう思った。というより、こう言いたくなった。

「池原、頼む。世界獲ってくれ!」

<おしまい>


▽バックナンバー
vol.14以前  vol.15(池原インタビューその1)  vol.16(池原インタビューその2)


■鈴木成章(すずき・せいしょう)
1971(昭和46)年生まれ、愛知県出身。基本は都内某社に勤めるサラリーマン。ボクシング観戦と外盤屋でのレコード漁りが、本業に著しく支障をきたしている30代・独身。使うあてもないのに、ボクシンググローブを買ってしまう、自称「文科系マニア」。




ボクサー亀田興毅の世界

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

ぷーやん
2006年06月08日 23:42
はじめまして?私、今井す◎◎と申します。www
ぷぷぷぷ・・・。ココ見つけちゃいました!!
インタビュー拝見させて頂きました。メキシコ!行ったんだよね!私はアフリカで、元プロボクサーのおじちゃん2名と知り合いました。(イコニさんとピーターさん)知ってる?
コレ読んでパワー頂きました☆ありがとう。
自分も頑張るし、応援してるんで頑張って下さい☆じゃ!

この記事へのトラックバック