酔いどれ前のひとりごと vol.95 追放

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vol.95 追放


 6月、元世界ジュニア・バンタム級チャンピオン、渡辺二郎が恐喝罪で逮捕された(恐喝未遂罪という記述もあるが、どんなものが未遂なのか首をかしげる)。7月、JBCやボクシング協会は彼を永久追放処分とした。

 後ろに手が回ったのは4度目で、情状酌量を訴えるボクシング記者の一文があったが、処置としては当然で、彼はもう日の当たる場所に出てくることはないだろう。

 仕方がないが、それを受けたこっちの思いは、ぴったりの言葉が出てこない。ボクシングがたちまち真っ黒になって、ためいきひとつ、だよ。

 当人が望んでそっちの世界へ…暴力団ね、行ったんであって、現役のころからすでにそっちの世界を見ていて、そんな環境があったんだろうな。とにかく、渡辺二郎がそっちへ行ったということをみんながさらっと見ていたということだ。

 ああ、ごちゃごちゃ言ってもしょうがねえなあ。永久追放だから、渡辺二郎という世界チャンピオンは存在しなかったということになったってだけの話だ。同列に言うべきものではないが、IBFチャンピオンになった日本人ボクサーがいたことも思いだす。

画像 しかし、おかしなもんだ。遠ざかってゆくはずの人影と入れ替わって、残像が具体性を帯びて浮かびあがってくる。日本拳法仕込みの間合いで、相手との距離を測って、外して、詰めて、そのとき、キュッキュッと、シューズがマットを踏む音が聞こえてくる。

 1982年、おれのボクシングオタクが始まった。15万でVHSビデオデッキ買って、ボクシング映像収集が始まった。そのとき、渡辺二郎は世界チャンピオンだったからそれなりの思い入れはある。テレビ各局にまだボクシング好きの人間がいたはずで、そこそこ放映があったし、渡辺二郎の世界戦はフルラウンドで再放送もやった。

 渡辺二郎は、ダウンはおろか、ピンチらしいピンチのないボクサーだった。

『世界名ボクサー100人』とか『日本名ボクサー100人』とか『ボクシング不滅の100番勝負』とか、近頃は出版されないがマニア垂涎の雑誌増刊号には、不可欠なボクサーだった。これからどうすんだろ。当然、渡辺二郎抜きだろうけど、ボクシングそのものが盛り返さないかぎり刊行はなさそうか。年度別の最強ボクサー一覧で糊塗することで間に合うか。

 衛星放送だスカパーだといったところで、ことボクシングに関しては放映枠は知れている。過去の勝負の再放送はあっても、負け試合や一部“疑惑”のある試合はやらないし、渡辺のように犯罪者になってしまったものの試合は一切流さない。よって、何かのツテがないかぎり、若い人は渡辺二郎の試合を見ることはできない。

 時空を超えて、さて誰が一番強いのか……不毛ではあるけれども、尽きぬ愉しい議論もやりづらくなった。おおっぴらにはできなくなった。渡辺を知る者がそのボクシングを称えても、過ぎゆく時間に多くが埋没していくから、知らぬ者は知らぬと言い張って、ついに知らぬ者の言い分が通るようになるだろう。

 ああ、やっぱり、ごちゃごちゃ言ってもしょうがねえなあ。

 拳闘とかボクサーとかリングとかチャンピオンとか、それらには尊崇の念がそそがれる。心奪う場面や試合や大記録があれば、永遠という至上の名誉が加わる。

 なもんじゃ、メシが食えねえんだ。

 強面(こわもて)でドスの利いた声が聞こえてきそうだけれど、そか、リング下りても命張るのかと、つぶやくしかあんめえ。

 追放になっても、キュッキュッとシューズは鳴る。

※イラスト提供:ajidan
 Illustration by ajidan


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。


この記事へのコメント

ビラロボス
2007年08月28日 12:03
白いスーツで、ちょっと変わったイントネーションのリングアナが懐かしいです。

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