松田vs.澤永戦に見る、愛すべき「諦めの悪さ」

 有名な話ではあるが、ガッツ石松氏がWBC世界ライト級タイトルを獲得する前の42戦の戦績は、26勝11敗5分である。日本ウェルター級タイトルを10連続KO防衛した串木野純也氏の、王座獲得前の戦績が15勝13敗であったというのもまた、有名な話だ。

画像 10月4日、日本フェザー級の王座をかけてリングに立った2人の選手の戦績を見てみよう。

 松田直樹(帝拳)が28勝8敗3分1NC、澤永真佐樹(赤城)が22勝7敗4分。いずれも「エリート」ではないことは、一目瞭然。ときに負けが込みながら、そして14年という月日を経て、ようやくタイトルマッチの舞台にたどり着いた“叩き上げ”だ。

 決して「悪い」(負けることが「悪」であるとはまったく考えていないので、便宜上、こういう表現をさせていただく)戦績ではないが、10年以上というキャリアを考えても、自らのボクサー生活に見切りをつけていてもまったく不思議ではない。まして2人とも、いわゆる大手ジムの選手ではない(松田は帝拳に移籍したが)。いつチャンスが巡ってくるか、それどころかチャンスが廻ってくるのかどうかすら前向きに考えることは難しかったはずだ。

 2年前のマリンメッセ福岡、初防衛戦で王座を手放した元WBC世界フェザー級チャンピオン、越本隆志は敗戦後の控え室で語った。

 自分は「諦めの悪い男だった」と。

 ボクサーとしての自分を総括するコメントを求められて返したこの言葉には、続きがある。

「だからこそ、世界を穫れたのだと思う」。

 越本もまた、いつチャンスが巡ってくるのか、あるいはチャンス自体がないかもしれない状況の下で戦い続けたボクサーだ。一度は世界戦のリングに上がったが、惨敗。その後はOPBFタイトルを獲得するも、ひたすらローカルファイトを続けた。

 グティ・エスパダス・ジュニア、エリック・モラレス、マルコ・アントニオ・バレラ(以上メキシコ)といった列強が跋扈する世界のフェザー級戦線に越本が割って入ることを期待する向きは多くなかった。それどころか「まだやってんの?」という視線も少なくなかっただろう。

 松田と澤永、この2人も大きな期待を集めてきた選手ではなかった。それどころかやはり、“肩たたき”があっても不思議ではない。そんな2人の「諦めの悪い男」がリング上で演じたのは、「大人の打撃戦」であったと思う。

画像 そしてベルトは松田の腰に巻かれた。

 石松、串木野、越本。そして松田と澤永。何が言いたいのかというと、「あきらめずに頑張って続けていればきっといいことがある」ということではない。ついでに越本からベルトを奪ったルディ・ロペス(メキシコ)、そのロペスを破った松田…という話をしようというのでもない。いまのは余計だったが。

 話を戻す。言いたいのは―――

 ボクサーの皆様、1度や2度、負けたくらいで辞めないでください。

 ということ。もちろん、野球のように年間に百数十試合もあるわけではなく、一つひとつの試合が重い意味を持つことも知っているつもりだ。1つの試合のためにいろいろなものを犠牲にして、賭けている選手が大半であることも。そしてその、たった1つの敗戦がどれだけ悔しく、心引き裂かれる思いであるかということにも無理解ではないつもりだ。

 それでも、勝者がいれば必ず敗者はいるのが試合というものだし、そもそも敗北と無縁でいられる人間なんてほとんどいないのだ。力及ばず、あるいは不運にして負けたら、次に勝てばいいではないか。次も負けたらその次に勝てるよう、頑張ればいい。それでも負けたら、勝つまでやったっていいではないか。

「頑張らせてくれる」環境があるのなら、そこに思い切り甘えて勝つまでやる。もちろん体が何ともなければ、というのが大前提だが、勝ってから辞めたって遅くないのではないか。そんなことを感じた王座決定戦だった。

 負けたくらいで辞めてたら、世の中のサラリーマンはみんな失業してるって。

[鈴]

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