明日拳闘的意見「《内藤vs.山口》の大いなる憂鬱」

 過去に2度、世界戦で完敗。しかもランキングは15位で、挑戦資格に疑問符がつく選手。こんなのでも看板を掛け替えることで「危険な挑戦者」に早変わり。

 坂田健史を“倒した”男――。

 まさにマジック。トリックと言った方が、より的確だろうか。マッチメイクの正当性を訴えつつ、近い将来の統一戦をチラつかせることだって可能だ。しかし、それはおそらく実現しまい。


 WBC世界フライ級チャンピオン、内藤大助(宮田)の4度目の防衛戦は、山口真吾(渡嘉敷)を相手に行われると発表された。

 前座にはOPBFフライ級チャンピオンの大久保雅史(青木)がジョジョ・バルドン(フィリピン)を迎え撃つ指名防衛戦、日本フライ級チャンピオンの清水智信(金子)と暫定王者である五十嵐俊幸(帝拳)の統一戦が、セットされている。「フライ級グランドスラム」といった趣だ。

 大興行だと言い切ることだって不可能な話ではない。たとえそれが、大いなる欺瞞であったとしても。

 でも・・・・メイン・ディッシュがいちばん美味くなさそうなコース料理を、誰が食べたいと思うのか。

 外国人との対戦よりも、日本人同士の試合が見たい。ことタイトルのかからない“オープン戦”に関しては、それは多勢を占める意見であり、そこに一票を投じることに躊躇はしない。しかし、最高のグレードに位置する「世界」の選手権試合に対しては、必ずしも当てはまらない。

 1967(昭和42)年に初めて、沼田義明(極東)と小林弘(中村)の間でジュニアライト級王座が争われて以来(これは本当にいい試合。ビデオを入手して「鑑賞」されることをお薦めします)、これで何度目の日本人対決なのか。

 もはや文献を当たって数え上げる気すら起こらないのは、ここ数年の安直としか思えない組み合わせの乱発によるものだ。


 そもそも《日本人対決》が盛り上がったのは、そこに稀少価値があったからだ。そしてファンが見たいと切望したからだ。

 前述の「沼田vs.小林」しかり、「大場政夫(帝拳)vs.花形進(横浜協栄)」しかり、そして近年の「薬師寺保栄(松田)vs.辰吉丈一郎(大阪帝拳)」に「畑山隆則(横浜光)vs.坂本博之(角海老宝石)」。やや小粒だが「戸高秀樹(緑)vs.名護明彦(白井・具志堅)」も、その範疇に入るか。

 内藤vs.山口(の世界戦)・・・・・見たいか?

 前回の清水戦だって坂田との抱き合わせだったから、ある程度の諦めを含みつつも看過されただけに過ぎないだろう。単体で興味をそそる組み合わせでは、決してない。

 亀田大毅(亀田/当時は協栄)戦にしても、「勧善懲悪物語」の第一幕を開けてみせ、きっちりと役割を果たしたという側面からは評価できるものの(“亀田退治”は、あの時点では快挙なので)、挑戦者の質という点ではお粗末なものであった。

 つまり2007年7月の戴冠後に内藤大助が戦った(あるいは、これから戦う)4試合で、「世界タイトルマッチ」と呼べるのは、前王者ポンサクレック・クラティンデーンジム(タイ)との一戦だけだ。

 ご存じの通り、残り3戦はすべてランキング11位以下の日本人。ひと昔前ならば、挑戦資格がなかったボクサーばかりだ(もっとも過去には挑戦が決まってから10位以内に押し込まれる選手もいたとは聞くが…)。

 つまり、チャンピオンシップのグレードという点では格落ちの感が否めない。もっとも内藤自身は堂々たる世界チャンピオンであることを考えれば、「世界王者の調整試合」という表現にとどめておくべきか。

 虚飾に満ちたコピーをつけて、1年あまりという短期間にこれだけの「世界戦」を乱発する主催者の罪は小さくない。

 内藤大助はボクシングファンだけではなく、主催者サイドにとっても宝のはずだ。しかし、彼らの行為は「金の卵を産むガチョウ」の腹を開けてしまうようなものに映る。

 もちろん、当初念頭にあった亀田興毅(亀田)とのビッグマッチが流れた背景にはジム間の交渉以外に、やむを得ない事情があったと推察できるので一概には責められない。それを承知での意見陳述である。

 基本的に選手は、組まれた試合に向けて鍛錬に励むのみであろう。それでも、日本人にチャンスを…なんて貧困な詭弁を弄してこんな試合ばかり続ければ、

「内藤って弱いヤツとしかやらないんだ」

 という印象をファンや視聴者に与えかねない。

「内藤バブル」にすがった主催者が、肝心の“内藤大明神”の神通力をどんどん目減りさせていっては元も子もないだろう。いまの状況は、内藤を大事にしなければならない人たちが彼を削って目先の欲に走っているように見える。

 もちろん、亀田戦が流れたあとに短期間で試合を決めねばならなかった労苦は察する。それでも、指名挑戦者以外の上位ランカーから順繰りに声をかけることができなかったのだろうかという不満を禁じ得ないのだ。

 ファンが見たいのは、「世界」チャンピオン内藤大助が未知の強豪と闘い、退ける姿ではないだろうか。


 2008年の暮れから2009年の年明けにかけて、大きな興行が続く。

 内藤V4戦後のおよそ1週間後、大晦日にはライバル王者の坂田健史(協栄)が、故郷・広島で指名挑戦者を迎え撃つ。

 そして正月早々に行われるダブル世界戦――指名試合であるWBA世界ライト級タイトルマッチ、「小堀佑介(角海老宝石)vs.パウルス・モーゼス(ナミビア)」と、WBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチ「西岡利晃(帝拳)vs.ヘナロ・ガルシア(メキシコ)」だ。

 こういう興行こそが「世界戦を観に行くんだ」という、ときめきや満足感を与えてくれるものだ。広島はちょいと遠いので、身銭を切る身としては、この冬はパシフィコ横浜に足を運びます。

 両国? ネットで結果だけ知ればいいっす。「清水智信vs.五十嵐俊幸」だけは見たいけど…。

[鈴]

この記事へのコメント

うて
2008年11月14日 18:19
かなり辛辣ですが、言い得てることだと思います。
興行側及び関係者の神経が分かりません。
渡嘉敷さんが口撃をやってたようですが、そんなものに釣られるほど、ファンは甘くないですね。
いつの頃からか、世界戦って名ばかりのものになっちゃったのが、ほんと寂しく思います。
どうかな?
2008年11月14日 22:52
いずれは指名挑戦をうけなくちゃいけないから、別にいいんじゃないの? 世界的に見て普通のことだと思いますが??

たしかに五十嵐vs清水の方が楽しみということはあります。
ボクサー
2008年11月14日 23:33
山口との対戦は批判される上にリスクが高いと思います。内藤のモチベーションが心配です。
同じねじ込みの挑戦者にしても、今回ばかりは亀田が連れてくるような?のつく、アジアのボクサーとでもやった方が批判が少なかったと思うのですが・・・。
ront
2008年11月15日 00:01
最後の一言は余計だと思います
bc
2008年11月16日 19:24
全く同意です。日本人同士の世界戦は、希少価値があってこその金看板なのに・・。山口の世界挑戦は、少なくとも世界ランカーや日本orOPBF王者に勝ってからでしょう。でやっぱり「世界挑戦資格導入」が必要になります。廃案時にこうなる事は完全に予期出来ましたし、今後も状況は続きます。次期総会で是非導入して欲しい、大橋氏の頑張りに大いに期待です。

いつもトップの挑戦者と戦えとは全く思いません。それは日本ボクシング界の構造を考えると、無駄で愚かだと思う。でも下限を守らねば価値低減する。

でも山口は試合評価とは別に、かなり危険な気がします・・。坂田戦のダウン奪取と奮戦、内藤との以前の何度かのスパーでも良い感じだったと言うし。清水と同じで小回りの利きスピード充分、これって内藤が一番苦手とするタイプでしょう。それに清水と違って打たれ強いし・・間違いなく接戦にはなると思います。

清水vs五十嵐、面白いですよね。単独でかなり面白いカードだと思うけどメインの陰に隠れ過ぎないようにアピールできないかなぁ。本来だったらこれだけ話題性のあるカードは、国内東洋レベルではそうそうないんですから・・・。
河童本舗
2008年11月19日 21:06
間違って山口なんかが勝たないことを祈る。

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