オールド・ファッション・ボクシング~5 【酔いどれ前のひとりごと vol.114】

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vol.114 オールド・ファッション・ボクシング
~タイソンからパッキャオまで~5


 1992年10月、大方の予想に反して、レノックス・ルイスドノバン・ラドックを2RKOで倒した。ルイス自身はもとよりヘビー級戦線の流れを変えた試合になった。

 そして11月、リディック・ボウイベンダー・ホリフィールドを12R判定でくだしてヘビー級王者になった。こちらの勝負は順当と見られたが、勝敗を超えた素晴らしいファイトだった。王者ではあってもタイソン不在の間の留守番チャンピオンと見られ、脇役に甘んじてきたホリフィールドが、若き実力者相手に闘志あふれる試合をした。

 この試合がホリフィールドの最高試合と僕は今でも思っている。ボウとの第3戦やタイソン戦をあげる人がたくさんいるけれど、僕はこっちがいい。

 シーソーゲームの面白さやエポックメイキング的な試合は探せば出てくるが、溶鉱炉から灼熱の鋼材が出てくるのを見たような試合はそうそうお目にはかかれない。国内ではユーリ・アルバチャコフvs.ムアンチャイ・キティカセムがあって、海外ではこの試合があって、と、1992年をそういうふうに僕は記憶している。

 リディック・ボウについては、なにより左ジャブがコンパクトできれいだった。不器用な選手でも我慢して続ければ習得できそうなパンチで、日本人選手がこれを手本にマスターして、誰が相手でも臆せず放つことができれば、日本ボクシングのレベルがぐっと上がるだろうと、その左ジャブを見るたびに空想した。

 先のボクシングマガジン500号記念誌で、日本ボクシングの最高試合を高橋ナオトvs.マーク堀越にしていたのを見た。立ち読みだったので詳しいことは分からないが、この試合を1番にするのかァと思い、僕が1番に選んだユーリvs.ムアンチャイは5番か6番か7番あたりにいて、そうかあと肩を落として本屋を出た。

 高橋会長(当時)のジムを初めて訪ねたとき、ネットで僕の文(「酔いどれオマージュ」)を見たらしく、「マーク戦がおれの最高試合じゃないって言ってる人がいる」と言った。それは今もってその通りだからいいんだけれど、そのワケを会長に言ったかどうか…たぶん言わなかったし訊かれもしなかったように思う。

 あの試合の引っかかるところは、高橋のカウンター頼みの横着が見えてくるところだった。それを横着なんて言ってはいけないんだろうが、マーク堀越を倒すにはまともな打ち合いでは負けるし、足を使ってポイントアウトも厳しい。

 ならばどうするか。勝つためにどうするか。

 パワーはあるが上体の動きがなく、ガードの甘い、打ち気にはやる相手にはカウンターで勝負するしかない。とっさの判断が正しい選択をして、それを見た人には忘れがたい試合になったと、僕も思う。

 だからケチをつけちゃあいけないんだけれど、もうちょっと、なんていうか、相手と向き合って勝負してほしかったというか、そんなこと言うと怒る人いっぱいで、ちゃんと向き合ってたじゃん、あきらめず勇気をもって勝負をしたじゃん、あれしかないっていうギリギリの戦いをしたじゃん、て・・・・そうなんだ、そうなんだけど、なんていうか、やっぱり、カウンター頼みの横着というようなものが僕には消えなくて、それで高橋選手のレコードでも日本のリングでも、あの試合を1番に推すことができない。

 それから1番にするなら、どっちかというと、沈む夕日よりも昇る朝日のほうにしたいという根拠なき願いが、困ったもんだが、僕にはある。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

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