ごめんね、テリー・ノリス 【酔いどれ前のひとりごと vol.119】

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vol.119 ごめんね、テリー・ノリス


 1984年6月、ロベルト・デュランはトーマス・ハーンズにわずか2Rで失神KOされた。この試合は日本テレビで放映された。

 初めてデュランを見た人は、なあんだ、デュランなんてたいしたことないじゃん、ハーンズに全然歯が立たないじゃん、どれだけ強いっていうのさ、ほんとは強くないんじゃないの、と、そんなふうに思わなかっただろうか。

 四半世紀前の試合なので知らない人もいて知っている人も記憶が薄れてしまっているかもしれないが、初めの印象がしばらく尾を引くことがある、ということが言いたくてこの試合を出した。

 1989年7月、テリー・ノリスはジュリアン・ジャクソンに挑むも、2RTKOであっけなく敗れる。これがノリスを見た初めだった。半年後ノリスはジョン・ムガビを1Rで片付けてジュニアミドル級王座につき、以後、スーパーボクサーとなってゆく。殿堂入りも果たす。

 けれども僕はジャクソン強し、ノリス弱し、という初めの印象がなかなか消えず困った。

 ジャクソンのほうは豪打で鳴らすボクサーとして注目されたが、1993年5月、ジェラルド・マクラレンに5RTKOで敗れてミドル級王座から陥落。1年後の再戦でも1RTKOされる。そのマクラレンも1995年2月、ナイジェル・ベンの持つスーパーミドル級王座に挑んで1Rから王者を圧倒したが倒しきれず、10R逆に倒されてKO負け、脳内出血でボクサー生命まで絶ってしまった。

 僕は、テリー・ノリスにもう一度ジュリアン・ジャクソンとやってほしかった。

 ジャクソンはジュニアミドルからミドルへと上ってしまったけれど、両者の対決を見たかった。勝っても負けても、ノリスは強かったと、初めの印象を消したかった。なぜそんなふうに思ったのか。ノリスの生涯戦績を見ればジャクソンを凌いでいるし、グラスジョーということもわかっているけれど、やはりノリスは強い、それをジャクソン戦で見たかった。

 なぜジャクソン戦で見たかったか、うまい説明ができないから、自分でも分からないといって逃げる。

 ノリスのステップが好きだった。ノリスの足許だけトランポリン仕様になっているようなステップ、あのステップのリズムでタメを作って強打が生まれると僕は見ていた。

 マービン・ハグラーがリングを去ってから、僕はミドル・ウエイトに物足りなさを感じていた。ハグラーの衣鉢を継ぐボクサーは現れず…ならばと、ジャクソンvs.ノリス、マクラレンvs.ジャクソン1&2、ベンvs.マクラレンといった試合を豪打の系譜として見つめていた。

 ほかにフリオ・セサール・バスケスやロイ・ジョーンズもいたけれど、彼らの倒しっぷりとジャクソン、マクラレンのそれとは毛色がちがうように見えた。

 丸太ん棒を振りまわしてぶっ倒すような大味なボクシングは、1976年のジョージ・フォアマンとロン・ライルの試合にとどめをさすと思うけれど、ジャクソンやマクラレンの見え見えの倒し屋ぶりはどこか懐かしく明快で僕は好きだったが、そこへノリスが切り込むのを見たかった。ノリスを見るたびによく思った。

 などと客は行き当たりばったり勝手なことを言う。ごめんね、テリー・ノリス。

 モハメド・アリもファイティング原田も海老原博幸も、僕が初めて見た試合はみんな負け試合だった。彼らのどこがそんなに凄いんだと、こましゃくれたガキは首をかしげていた。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

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