敗者の残像 【酔いどれ前のひとりごと vol.124】

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vol.124 敗者の残像


 年をとると年のことを言いたくない、言われたくない。そっとしておいてほしい。わかっている、わかっているんだ、ただただ食っちゃ寝を繰り返して、ナリを崩して、振り向くわけはないのに女を追いかけて、何も成さず、うかうか年月を過ごしてしまいましたということが・・・。

 35年ぶりにモハメド・アリvs.チャック・ウエップナー戦を見た。

 当時は東京12チャンネルと呼んでいたテレビ局の録画中継だったと思う。

 キンシャサの奇跡でヘビー級王座に復帰したアリの初めての防衛戦。この試合のおかげで映画『ロッキー』が誕生したそうな、それらはどうでもいいんだが、旧友に再会する気分でともかくもDVDをセットした。

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MUHAMMAD ALI
 このときウエップナーはいくつだったのだろう。目につくのは薄い頭髪とたるんだ体と後頭部を打つラビットパンチ。

 ボクサーとして、アリとウエップナー、どちらが強いか優れているか、火を見るより明らかで、トウの立ったボクサーはゴングが鳴って時間が経つほどに、目は腫れ鼻は潰れ口は裂けてゆく。

 ラッキーパンチだの逆転KOだのピンチはチャンスだの勝負はゲタを履くまでわからないだの、世人はすてきな文言を残してくれているが、それらがあてはまらない、勝敗の帰趨が明確に見える試合だってあるさ、と、僕はつぶやく。

 今回フィルムを見て、ウエップナーの再三のラビットパンチに対して、レフェリーの注意が足りないのに驚いた。今なら減点もたびたびで反則負けもやむなしだろう。そのラビットパンチは故意よりもブキッチョゆえとは知れるが、反則は反則だ。

 ボクサーとしても人間としてもアリのほうがずっと高い所にある、そんな感じがしますね――なんていうテレビ受けを狙うタレント発言みたいなものも浮かんでくる。

 しかし、しかし。

 ウエップナーは戦う姿勢を崩さなかった。誰かが止めてくれるのを待つとか、たとえ負けてもノックアウトされずに最後まで立っていようとか、そういう料簡が見えてこない。

 13R、14R、15Rとおしまいが近づくにつれ、動きに乱れが生じ、面相がさらにゆがんできても、狭く、ぼやけていただろう視界に、変わらず前へ前へと出て、ついにはロープを揺らして沈んでいったけれども。

 ウエップナーは最後まで向っていった。立ちむかうのはスーパースター、モハメド・アリではあるけれど、彼は本当は誰を相手に、おのれの醜さをさらしながら、へたっぴいなボクシングを続けて、この無残な戦いを戦っているのか、と、そんなふうなことを見る者に喚起させた、年端も行かぬガキだった自分にもぼんやりと、たぶん。

 じゃあ、またね。

 僕はスイッチを切ってDVDを仕舞った。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

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