ハグラーvs.レナード――強者と勝者 【酔いどれ前のひとりごと vol.126】

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vol.126 ハグラーvs.レナード――強者と勝者


 1987年4月6日の「マーベラス・マービン・ハグラーvs.シュガー・レイ・レナード」戦について――

 2-1の判定でレナードが勝って、再戦条件も整わず、苦衷の中でハグラーは引退した。

 現代ボクシングルールで最大の変革(と、いつもの僕の一人決めだが)だった《世界戦15回戦から12回戦》への移行によって勝敗が決まった、という意味で、この試合をよく言えばエポック・メイキング、悪く言えば人気衰退の分岐点として僕はとらえている。

 この試合の判定は今でも論議があるけれど、当時見ていた感想では、見映えの良さでシュガー・レイが勝ったと僕は思った。

画像 今日までフルラウンド再生して見たことはないが、見直して勝敗の行方がぶれると面倒なので、思いだけを書く。われながらいいかげん。

 おおざっぱに言う。今の若い人はどうだかわからないが、当時のボクシングファンは、ハグラーファンはもちろん、レナードファンだってたぶん、みんなわかっていた。

 マーベラス・マービン・ハグラーとシュガー・レイ・レナード、どっちが強いか。

 ハグラーに決まっている。あの試合のあとでもどっちが強いかといったら、ハグラーのほうが強いのである。僕がハグラーファンで負け惜しみを言っていると、どうかとらないでほしい。

 まともに行ったら敵わないのはレナード側もわかっていた。しかし勝たねばならない。

 権謀術数を駆使してレナード人気に乗じて有利な条件をかさねた、その最たるものが「12回戦」だった。12回戦なら強い者が勝つとは限らない、ということをレナード陣営は読み、賭けた、と僕は思いたい。

 あのハグラー相手に善戦健闘の惜敗はいらない、一回限りの勝利あるのみ、と。

 そういったレナード陣営の思わくは、ハグラーにはとうに見えていたと思う。それならそれでいい、好きにやるがいいさ、どんな条件になろうとも勝つのはオレだからと、そこに毛ほどの油断が生じてしまったのではないか、それも含めてのレナード側の駆け引きだったのか…。

 強い者が勝つとは限らない、勝った者が強い、という言い古された文句がある。それは勝負全般にとどまらず、世間一般にざらにあることだが、なんだろう・・・・この「ハグラーvs.レナード」戦に限っては、勝ったのはレナード、強いのはハグラーと僕は今でも思ってしまう。

 べつにそれはレナード勝利へケチをつけるのでも、ハグラーへ同情を寄せるのでもない。勝者と強者とがそれぞれにある、そういう試合だった、ということ。

 あれから20年以上が過ぎた。ハグラーに勝ったんだからレナードはハグラーより強かったと、そういうふうなことだけが消えずに残るなら寂しいぜと思って書いた。

 繰りごとだが、プロボクシングがどんどんポイント制に変わってくるようで、どっちが強いんだ、じゃなくて、どっちが勝つんだ、勝ったんだ、という見かたをしている自分に気づいて、落ち着かなくなることがある。

 いつぞや元世界王者の小林弘さんとお話をしていたとき、世界戦は15回のほうが良かったと僕が漏らしたら、業界は改革に失敗したと話を合わせてくださった。

 12回に変わったのは、世界戦で韓国人選手が死亡したことがひとつのきっかけだったと記憶しているが、今に続く時流でもあったんだろうな。

 マニー・パッキャオが新鮮に映るのは、どっちが強いんだ、を見せてくれるからじゃないかと、これはまあ自分の田んぼに水を引いただけだけど。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

この記事へのコメント

ajidan
2009年10月28日 15:40
私もレナードの勝ちと見ました。
3年の空白を感じさせないパフォーマンスは見事でした。
ハグラーには再びリングに上がって欲しかったですが・・・。
試合の日を、焦がれるように待ちわびたあの日を思うと、
現在の状況を嘆かずにはいられません。いろんな意味で。
カリメロ
2012年03月06日 15:44
久しぶりにまたハグラーXレナードを見ました。当時はハグラーに若干ポイントがいってたと思いました。今回の採点は引き分け。レナードは強いハグラーを相手に頭脳を使った最高の試合をしたと思います。彼は本当に役者です。逆にハグラーは気持ちが強すぎて強引にいってしまい、単発と空振りがマイナス点だったと感じました。今回見ても非常にゾクゾクしました。こんな感覚もう最近の試合ではないですね。

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