ストレート・フェチ 【酔いどれ前のひとりごと vol.129】

画像


vol.129 ストレート・フェチ


 アルツロ・ガッティを初めて見たとき、ああオレはこの選手を好きになるなあと思った。左をぽんぽんびしびし出して・・・こういうの、オレ、弱いんだよね。ストレート・パンチャーっていうだけで目がいってしまう。

 その後に見せる彼の激闘は称賛に価するけれども、ストレート主体のボクサーという第一印象が今でもある。

 もうずっとずっと前のこと、ン十年も前の或る日、ボクシング指南書を、もうその書名も覚えていないが、読んでたら、腰の回転でパンチは繰り出されるからパンチはフックになるのが自然、というような趣旨のことが書いてあって、それだけがいつまでも頭に残った。

 自然にまかせてぶんぶん振りまわせばそのぶんラクだろうに、ストレートは円運動をあえて直線の軌道に変えるという作業をする。そういう理屈を勝手にこしらえて、それが愚かな努力に映って、天邪鬼のオレは気に入ってしまった。まっすぐなパンチが単にきれいに見えただけなのかもしれないけどね。

 体操選手が鉄棒でぐるぐる回っていて、ある瞬間、体に加減をつけて、ふっと上方向というか縦方向に移動する、あるいはハンマー投げでサークル内をくるくる回って気合一番、放たれたハンマーは、円を描いて飛ぶかというと、まっすぐに延びてゆく――ああいうのを見るたびにストレートパンチを思い浮かべていた。

 ユーリ・アルバチャコフを贔屓にしてしまうのもストレート・フェチゆえで、コウジ有沢も良かった。彼らにはまた一本調子のブキッチョさがあって、専門家はああじゃこうじゃ言うけれど、あばたもえくぼ、それがまたいいじゃん。

 左は世界を制すとかストレートパンチの効能とか、そういうこと以前の話さ。

 そういえば「薬師寺保栄vs.辰吉丈一郎」の戦前予想。薬師寺が、というより、ストレートが勝つんじゃないかと言って、結果当たって、そばにいた女の子に褒められたもんだが、あれ以来、見る目がなくて、大試合の勝敗予想は当たらなくなった。ついでながら女運もなくなった、もともとなかったけどさ。

 いつぞやJBスポーツジムに、高橋直人会長(当時)をたずねた折、ボクサーがだめになっていく目安の一つとして、脇が開いてしまってストレートがまっすぐに打てなくなるということがあると教えてもらったことも思い出す。

 とにもかくにも、長谷川穂積もマニー・パッキャオもたいしたもんだった2009年。

 暮れゆく時間に天を仰ぐ。死んだらそれっきりのはずで、天国も地獄もありはしないが、勝手なもんで、自分が好きだった人が死んだときだけあの世が出てくる。

 輝く星と消えゆく星とを想い、柄にもない少女趣味と我ながらあきれつつ、夜空の星と闇とを、立小便しながらだけど、眺めたよ。


▽バックナンバー
vol.128 内藤vs.亀田を見て .....
vol.127 いやんなっちゃうぜ
vol.126 ハグラーvs.レナード――強者と勝者
vol.125 モハメド・アリ最高試合
vol.124 敗者の残像
vol.123 稀代のボクサー
vol.122 デュランvs.レナードと、六月の雨
vol.121 オールド・ファッション・ボクシング~11
vol.120 オールド・ファッション・ボクシング~10
vol.119 ごめんね、テリー・ノリス
vol.118 オールド・ファッション・ボクシング~9
vol.117 オールド・ファッション・ボクシング~8
vol.116 オールド・ファッション・ボクシング~7
vol.115 オールド・ファッション・ボクシング~6
vol.114 オールド・ファッション・ボクシング~5
vol.113 オールド・ファッション・ボクシング~4
vol.112 粟生隆寛、1ラウンドKOを命ず
vol.111 オールド・ファッション・ボクシング~3
vol.110 世界を制する左を
vol.109 オールド・ファッション・ボクシング~2
vol.108 オールド・ファッション・ボクシング~1
vol.107 粟生惜敗で思い出す「女神」…つづき
vol.106 粟生で思い出した「女神の機嫌」
vol.105 粟生が逃したチャンス
vol.104 がれき
vol.103 大場政夫の強さについて
vol.102 ずるずる負け
vol.101 たわごと・ざれごと・えそらごと Part 3
vol.100 日本最高試合その3
vol.99 日本最高試合その2
vol.98 日本最高試合その1
vol.97 たわごと・ざれごと・えそらごと Part 2
vol.96 たわごと・ざれごと・えそらごと
vol.95 追放
vol.94 ゴキブリ発言
vol.93 辰吉、魅惑の3番勝負
vol.92 それぞれの落日
vol.91 運の悪い男
vol.90 ロッカールーム
vol.89 重箱のスミ~2006年12月号
vol.88 重箱のスミ~2006年11月号
vol.87 アウトがセーフ
vol.86 重箱のスミ~2006年10月号
vol.85 ラウンドガールは飯島愛
vol.84 重箱のスミ~2006年9月号
vol.83 夢の始まりは…
vol.82 重箱のスミ~2006年8月号
vol.81 拳聖ふたたび
vol.80 重箱のスミ~2006年7月号
vol.79 重箱のスミ~2006年6月号
vol.78 重箱のスミ~2006年5月号
vol.77 重箱のスミ~2006年4月号
vol.76 重箱のスミ~2006年3月号
vol.75 悪いのはだれだ? おれだ…
vol.74 オサム会長はおっきいのがお好き
vol.73 重箱のスミ~2006年2月号
vol.72以前 夜明け前,カメダ・ワールド,重箱のスミ~2006年1月号,逆転の貴公子,ほんの少しの恐怖,ジャブを出せ,ガッツ石松 vs ロベルト・デュラン~もちろん架空~エキジビション,最強という名の幻想,年間最高試合について,これぞ伝説,アリ、フレージャー、そしてフォアマン,だけどファイティング原田は好きだった,なんとなく空想対決[G.フォアマン vs B.サップ],拳聖....etc.


■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

この記事へのコメント

狂気の右ストレート
2009年12月25日 14:06
初めて投稿させてもらいます。
石塚紀久雄氏(織田淳太郎)が書いた「大場政夫の生涯」の文庫本の題名が狂気の右ストレートでした。
大場政夫さんは、交通事故や逆転劇で有名ですが試合を見て驚いたのはそのストレートの美しさでした。
その後文庫本の題名は「首都高に散ったチャンピオン」に変わって作者の名前も変わりましたが・・・

この記事へのトラックバック