大晦日の横浜文化体育館・W世界戦 【酔いどれ前のひとりごと vol.133】

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vol.133 大晦日の横浜文化体育館・W世界戦


 リングに近い席ではあったが、二列前に座る人の頭が邪魔で仕方がなかった。世の中にこんなに頭のでかい人間がいるんだろうか。突然の日食に遭遇した気分で、その頭に阻まれて、光あふれるリングが思うように見られない。

 会場の大型スクリーンはクリーンな映像を出しているけれど、値打ちは眼前のリングに及ばない。

画像 フラストレーション多い観戦になったが、ホルヘ・ソリスを沈めた内山高志は盤石だった。

 きっちり仕留めて、場内は沸きかえった。しかし僕はその最後の左ブローを右ブローと見誤るザマだった。


 その前の「セレスティノ・カバジェロ×細野悟」戦は、日本人ファイターがボクサーファイターの西洋人に翻弄される、見なれた展開だった。勝者は強かった巧かった、敗者は健闘した――そんなお定まりを繰り返しながら、日本人はいつまでこんな試合を続けるんだろう。

 カバジェロがパナマ人だったせいか、僕は退屈しのぎにイラリオ・サパタを思い出していた。遠い昔のボクサーではあるけれど、僕には昔のボクサー、今のボクサーという区別はほとんどない。

 日本人はついに彼に勝てなかった。判定で敗れ、再戦すればKOされた。

 そんなセオリーを壊したのは韓国の張正九だった。判定で敗れたが再戦では3ラウンドにギブアップさせた。なぜ張はサパタに勝てたのか。

 マッチメイクがどうだ技術がどうだ根性がどうだ、いろいろあるだろけど、もっと簡単に考えてみる。誰の試合でもいい、KOでも判定でもいい。わかりやすいから、世界奪取の試合、奪取できなかった試合を注意して見てみれば、なぜ勝ったか、勝てなかったか、見えてくる。時にミスマッチや疑惑もあるけどさ。

 勝負の分かれ目は、簡単なんだ。待つか待たないか、それだけ。

 攻めこんでいっても、かわされたり、打たれたり、それでどうしようかって思うようになって、知らず知らず待ってしまう。と、そこへまたパンチを浴びて、しかし攻めるしかないと前へ出て、かわされて、いなされて、打たれて、だからまた立ち止まって、この一発が当たれば相手は倒れるなんて。そりゃそうでしょう、当たれば。

 だけど相手のステップを許しているうちは絶対に当たらない。また打たれて、ほかにスベがないから仕方なく向かっていって、当たらず当てられ、迷い考えているうちにおしまいになる。ハタメには攻めているように見えても、パンチが当たらないと、けっこう待ってしまうんだよね。

 観客のほうもよく知っている。世界奪取の試合って、待ちがなくて、自然に行け行けって気持ちになるもの。運の善し悪しなんてない、そういうもんだべ、ボクシングは。

 事を成そうとするなら、なりふりかまわず、どんどん待たずに行く。おおかたの人のおおかたの人生と同じで、そういう単純なことが実はできないんだけどさ・・・・なあんて、ほざいたら叱られちゃうなあ。内山のフィニッシュブローもわからない奴に何がわかるか。

 でもなあ、やっぱり失敗もあるけど、舞台に立つほどのボクサーなら、勝つためにも行くっきゃないし、待たずに行けるだけの力量を備えて、待たずに行ってほしいよ、ボクシングのためにも。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。



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この記事へのコメント

CQ
2012年01月24日 20:35
やみくもに前進している、攻めているようで、
実は「待っている」…なかなか深いお言葉でした。
何か「ことが起きる」のを「待っている」だけというのも含まれているのかな、なんて勝手に解釈してしまいました。

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