天国のボクサー 【酔いどれ前のひとりごと vol.135】

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vol.135 天国のボクサー


 『神様のリング』(林壮一著 講談社刊)を読んだ。

 1982年7月に拳を交えたアーロン・プライアーと亀田昭雄、ふたりの物語をじょうずにつづっている。

 僕にとっては懐かしい時代で、この年初めてホームビデオを買った。

 思い出すのは、同年11月に行われたプライアーとアレクシス・アルゲリョのテレビ東京放送。番組冒頭で、亀田はプライアーのことを怖かったと言った。プライアーは亀田のことを距離のとりかたのうまい、いい選手だと褒めていたと、これはゲストの故・佐瀬稔の言葉だった。

 そのずっと前、亀田は写真週刊誌でホープとして取り上げられていたなあと瑣末な記憶までよみがえってきたものだった。

 いっぽうのプライアーは猛々しく緻密で、ゆえに強靭なそのボクシングは僕の中ではいまも色あせてはいない。

 そうしてサルバドル・サンチェスになる。

 どうしてサルバドル・サンチェスになるのか、たぶん1982年はサンチェスが死んだ年だからと、政治家の答弁のようにあいまいに応えるしかない。

 当時の『ワールド・ボクシング』だった。表紙のボクサーは思い出せないが、「サンチェス無情のテンコング」の文字に驚いた。昔は情報なんて耳くそくらいしかなかったからね。

 サンチェスが負けたぁ、なぜ、どうして、誰に、どんなふうに、いったいなんなんだよ、無情かぁ、無情ということはトラブルに見舞われたか、どんなトラブルなんだ。

 高い金で買ったビデオでサンチェスにひと目ぼれして、ああカネもいらない、女もいらない(ほんとはどっちもほしい)、それよりもこんなボクサーのマネージャーになって、手練手管の奴らを相手に世界のリングを渡りあるいてみたいと空想していた矢先の、交通事故死だった。

 今でもサンチェスを想うとき、多くの人が好きな人をしのぶように、そんなものあるわけないはずなのに、天国でどうしているだろうと考えてしまうよ。

 サンチェスを想うとき、あれから30年も経つのに、世間にも僕にもいろんなことがあったのに、時間はまたたくまに過ぎてしまったよ。

 『神様のリング』を読みながら、いつしか僕は作者の意図とは懸け離れたところでページを繰っていた。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。


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この記事へのコメント

ミゲル
2012年02月09日 09:15
サンチェスかっこいいですね!
トーストサンド
2012年02月09日 17:45
ゴメス戦、よかったな。
[井]
2012年02月10日 19:04
やはりゴメス戦の印象がとても強いですね。

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