目の前の人――勝間和雄 【酔いどれ前のひとりごと vol.136】

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vol.136 目の前の人――勝間和雄


 過日、ある酒席に招かれて、はからずも勝間和雄さんにお会いすることができた。

 果敢なファイトスタイルがよみがえってきて、僕個人の想い出なんかも浮かんできたりして、ちょうど向かい合わせの席でもあったので、僕は懐かしさいっぱいで往年の名ボクサーをまじまじと見つめてしまった。

 現役のころと変わらぬ体型で、引退後も体に傷みはなく、2.0だった視力が年のせいかこの頃1.5になってしまったと嘆くほどに眼疾の憂いもないのは、嬉しいものだ。

 空手の鍛え方で鍛えたから拳も痛めたことはないという。その拳は軽量級ボクサーのものとしては驚くほど大きく、ナックルパートは隙間なく積まれた石垣のようできれいだった。

 話は自然、ベストバウトだろう小林光二戦に及ぶ。

 気持ちはずっと前へ前へ、パンチはまっすぐ中へ中へ打ちこんでゆく。日本王者になって一戦ごとに勢いづいて、その最高到達点での試合だったというのが僕の印象だけれど、初めから勝つつもりだったと、ご本人は28年後の今もケロリとしていた。

 そして渡辺二郎戦。

 地上波の(当時はそれしかなかったんだけど)、ゴールデンタイムでの(世界戦では当たり前だったんだけど)、単一カードでの世界タイトルマッチ(そんな時代があったんだねえ、プロボクシングをみんなが見ていたという時代が)

 待ちの王者に出鼻出鼻を叩かれて、勝負をさせてもらえなかった感があるが、

「あの試合、勝間さんカッコよかった、ほんとカッコよかった」

 ふいに声をあげた人がいたので僕は虚をつかれた。

 どこがどうカッコいいのか、家族を背負って強者に向かっていく姿勢かしら、その理が僕には呑み込めなかったが、僕には見えず、その人には見えたものがあったんだろう。

 うん、そう、そういうのって大事なんだよなあ。感じたものをなにものにも左右されずに感じとっておくっていうようなこと。

 惨敗とかミスマッチとか、渡辺二郎戦は今でもそんな声がある。

 でもそれは結果をみての安全な言い分だろう。それともこの世は結果かしら、かもしれないけれど、ならば初敗北までのマイク・タイソンやトーマス・ハーンズの試合はほとんどがミスマッチだったってことだよなあ。

 ま、そんなことはともかく、テレビの中やリングの上だけだった人が目の前の人になったとき、時の移ろいも懐かしく、その気さくな人柄も手伝って、勝間和雄その人に情が移って、夜は更けていきました。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。


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この記事へのコメント

まこまこ
2013年04月03日 15:34
渡辺さんへの挑戦者決定戦として
12Rで行われたんですよね、小林さんとの試合。
厳格さを感じ背筋を伸ばしたのを覚えています。
そしてロジカルコンテンダーとして堂々と挑戦。
もてる全てを出し切り最後は気力と根性
”これからだ!これからだ!”とつぶやきながら
渡辺さんに向かって行きました。
気力も体力も何もかも万策尽きようとした時
拳で会話していた渡辺さんが
”勝間さん もういいぜ”悲しげな微笑とともに
グローブで小さくサインを送りました
勝間さんは満足したようにマットに沈んでいきました。
渡辺さんを応援に行った自分でしたが、帰り道
悔しくて残念な気持ちの私がいました。
胸が締め付けられた忘れられない試合です。
2013年04月03日 23:05
Jバンタム級は渡辺選手が頂上にいてそのほか群雄割拠でした。関選手 糸数選手 ジャッカル丸山選手も晩期でしたがまだ強く小林光選手もいました、すぐ後には丸尾選手 中島選手も続いていました。懐かしいです。私は関選手に
最も期待していて最初の対戦はKOで勝っていてそのころの勢い続いてほしかったです。
[井]
2013年04月07日 17:34
渡辺二郎戦、私も“惨敗”と感じた一人です。当たり前かも知らんですが、何年もたち、いざご本人と話をさせてもらうと、ちがった感慨を抱きます。別途時間をとってもらう機会が持てたらいいな…と思いました。

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