On Boxing@PC #004

レイ オオヒナタの《On Boxing@PC》
――モニタの片隅からセカイを覗く――

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#004 キューバ勢ウオッチ【ようやくビデオ観戦…の前編】

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まずはソリス!

 欧州に亡命した5人が契約したのは、ハンブルグを本拠地に据えるアリーナ・ボックス・プロモーションという新興会社だとはすでに書いたが、このアリーナ~は今かなり伸びてきているプロモーションで、ソリスやリゴンドウには億単位の契約金を支払ったらしい。

 ここには、同じキューバ人で亡命生活も14年目に入ったあのフアン・カルロス・ゴメス、05年に単独でドイツへ逃げたベテランのペドロ・カリオン(01&03年世界選手権スーパー・ヘビー級銅、銀メダリスト)も所属しており、何人ものキューバ系が結集したその状態は、かつての「チーム・フリーダム」(カサマヨル、ガルベイ、ウルタド、カスティージョらが所属していた、亡命キューバ人がオーナーのプロモーション会社)のようでもある。

 4月27日に行われた興行でプロデビューしたソリス、ガンボア、バルテレミは、6月と7月にも試合をこなし(バルテレミは7月は出ていないが)、これまでのところ全員全勝。次戦はそろって9月21日のハンブルグ興行の予定だ。


◆Friday 27 April 2007@Arena Gym, Hamburg, Germany
「Back To The Top」
【ヘビー級4回戦】
オドラニエル・ソリス(117.2キロ)/0-0-0
 ――KO 1R time: 0:47――
× アンドレアス・シドン(106.5キロ)/32-7-0, 26KO



 亡命組の中でも一番注目を集めていたソリスのデビュー戦。

 潜伏していたコロンビアの気候とは真逆の、寒いハンブルグに到着してから試合まで僅か1カ月と少ししか時間がなかったから、果たしてどのような仕上がりを見せてくれるのかに注目していたけれど、まさに文句の付けようがないスタートを切ってくれた。

 開始早々、オーバーハンドの右フックで顎を打ち抜いて痛烈なダウンを食らわせると、何とか起きあがってきたフラフラのシドンをすぐさま左フック、右ボディで追い回す。

 最後は、再びロングの右フックを鼻っ柱に掠らせてロープダウンを奪い、一分もたたないうちに試合を終わらせた。

 相手のシドンは44歳のロートルではあるが、一応は現役のドイツ・ヘビー級王者にして元キックボクサーという異色のキャリアの持ち主。それを苦もなく秒殺するとは、正直、驚いた。

 ソリスはアマ時代(特にヘビー級のころ)は俊敏に動き回り、打っては離れのバランスがよいテクニシャンだったのだけれど、プロではもっと好戦的な戦い方に変えていくようだ。

 ガードを固めながらやや前傾姿勢を取り、軽い左のリードで牽制しながら、思い切りインサイドに踏み込んで強打を打つ。その際のステップは機敏に飛び跳ねるアマのリズムではなく、ゆっくりと歩くようにしてプレッシャーをかけ、最小限の動作で一気に相手を追い詰める方法に切り替えていた。

 そのスタイルチェンジも、このハードヒッターぶりを見れば頷ける。アマ時代は分からなかったが、ギアが無い相手に対してのパンチ力は想像以上のものがある。

 そして、なによりそのスピード!

 最初に痛烈なダウンを奪った振りかぶり気味のロングフックや、とどめを刺した右、いずれも、とても117キロのボクサーとは思えない踏み込みの早さ、鋭さだった。

 可哀想なシドンおじちゃんは全くそのパンチに反応できず、顎を打ち抜かれて派手にぶっ倒たされたが、「こりゃ駄目だ」と言わんばかりの顔で起きあがってきたのが印象的だった。

 今後、相手のレベルが上がって来た場合にもこのような派手なKOが出来るかは未知数だが、鈍重さを感じさせない柔らかい動作と鋭いステップイン、迫力充分のシャープな強打など、ホープとしての魅力は十分にアピールできただろう。


◆Saturday 16 June 2007@Atat rk Sport Salonu, Ankara, Turkey
【ヘビー級4回戦】
オドラニエル・ソリス(117.2キロ)/1-0-0, 1KO
 ――KO 1R time: 0:41――
× アレックス・マジキン (114.5キロ)/10-1-0, 2KO



 デビュー戦を衝撃的なKOで飾ったソリスの2戦目は、トルコで実に20数年ぶりに開催されたプロ興行にて(アリーナ・ボックスのオーナー、オネルはトルコ系で、元々はSミドル級のボクサーだったから、故郷に錦を飾るという意味合もあったのかもしれない。この日のメインは、トルコのアマエリートからプロ転身したシナン・サミル・サンvs.オリバー・マッコールだった)。

 相手はドイツのヘビー級のホープであるタラス・ビデンコ相手に一敗しかしていないウクライナ人。32とやや年を食ってはいたが、大柄さとリーチを生かしたうるさいジャブを得意とする、そこそこの選手だった。

 2戦目のホープにこのクラスの10回戦をあてると言うのもあまり聞かないが、オネルはよほど自信があるのだろう。それを裏付けるかのように、ソリスは前回と同様またも1分以内にカタを付けてしまったのだから、脱帽するしかない。

 試合が始まると、軽く右を振りながらプレッシャーをかけ、たちまち相手をコーナーに詰めて連打をまとめたが、この時点で実力差はあまりに明白だった。リーチ、身長差をまったく苦にしていない。

 慌てるマジキンは何とかクリンチしながらコーナーを脱出したものの、ソリスは強引にそれを振りほどくと、すでに及び腰の相手を鋭い踏み込みでさらにドタバタと後退させる。そして、軽くダックしながら左ボディーで距離を測り、狙いすました右オーバーハンドでマジキンを補足した。

 テンプルに掠るようにヒットしたその一発で、試合は決まった。

 つんのめるように両手をついてダウンした後、なんとか立ち上がったウクライナ人だったが、すでに戦意喪失状態。力無くコーナー方向へよろめき歩く。それを見て、すぐさまレフェリーがTKOを告げた。


 あまりに早い決着だったが、デビュー戦に続き、ソリスの強打ぶりの一端が明らかになった試合だった。かなり身長差がある相手を苦もなく一発で倒す右の威力、スピードはやはり相当なもので、ピンポイントで急所に命中させる当て感もすごい。

 バランスを崩して後退し、ガードが下がりッ放しだったところに狙いすました一発を食らったマジキンは、プレッシャーに圧されてパンチがまったく見えていなかった。

 前回のシドン戦でも思ったが、ソリスの、このブルファイターとも呼べる強引さはアマ時代とはまるで別のボクサーのようだ。


◆Friday 6 July 2007@Arena Gym, Hamburg, Germany
【ヘビー級4回戦】
オドラニエル・ソリス(116キロ)/2-0-0, 2KO
   ――判定 3-0(40-36, 40-36, 39-37)――
× アルド・コリアンダー(108.5キロ)/12-1-0, 5KO

 ↑1~2R     3~4R↓



 デビュー戦とそれに続く2戦目を、いずれも1分以内のKOという最高の結果で終えたソリスだが、1カ月とおかずに、今度は7月早々にアリーナ・ボックスの地元ハンブルグで3戦目を行った。

 期待の大きさからか、大型のアマホープにしては異例に厳しいマッチメークを組むプロモーターのオネルが今度チョイスしてきたボクサーは、スウェーデンで活動する長身セネガル人ボクサー、アルド・コリアンダー。

 戦績もまずまずで、前回のマジキンと同じく、13戦して未だタラス・ビデンコに判定で敗れただけ。普通の意味では「有望株」の一人だと言える。けして、単なるかませ犬とは言えない。
コリアンダーは、この試合が決まってからも直前までソリスとやるのを渋っていたらしく(自分が踏み台として選ばれたと分かっている上、勝てる目算も薄い事も理解しているのだ)、当日のファイトスタイルも逃げっぱなしという情けないものだった。

 ソリスは終始ゆっくりとプレッシャーをかけつつ、細かいダッキングで積極的にインサイドに踏み込みながらボディ→顔面への連打を打ち込んでいくが、コリアンダーはひたすら下がりながら、ガード、クリンチ、手数を減らしたカウンター狙いで、自分から試合を作れない。

 あきらかに、倒されないことだけを主眼に置いていた。

 このレベルのボクサーに、4回戦という時間内でエスケープに比重をかけた戦法を取られると、倒しきるのは困難だ。加えて、ソリスがかかとの怪我で万全のスパーリングを行えなかったという事情もあってか、この日は判定までもつれ込んだ。

 当たり前だが、判定は常にプレッシャーをかけ続けたソリスの圧勝。

 怪我が公表されたのは試合後だが、言われてみると若干踏み込みに鋭さと正確さが足りず、ところどころセーブしながら戦っていたようにも感じられた。
もう少し体重を絞れば、さらに切れが増した動きができそうだ。186センチで114~117キロはやはり重いだろう。

 それだけ重くても鈍さを感じさせる事はないが、91キロでアマヘビー級を戦っていたときの軽やかさと鋭さは望むべくもない。

 110キロを切る程度までの減量なら、体重を増やしたことで得たパワーを失わずにシャープさを増せる気がする。

 とはいえ、3戦目にしてこのレベルの相手をマッチメイクされ、何なく退けられる実力はやはり図抜けている。

 オスカー・デラホーヤの例に典型的だが、通常、期待されているホープには10戦程度までは、負け先行かどっこいどっこいのかませボクサーをどんどん倒させていくものだけど、オネルはソリスにそんなまだるっこしい道程を辿らせる気はないようだ。

 次戦、果たしてオネルは誰を選んでくるのか?

 転向してから半年近くが経っているソリスの仕上がり具合はどう変化しているのか?……楽しみだ。

……つづく

※上記の試合は全てYoutubeでも見ることができます。興味を持たれた方はアルファベットで検索してみることをおすすめします。


▽バックナンバー
#003 キューバ勢ウオッチ【前フリ…の後編】
#002 キューバ勢ウオッチ【前フリ…の前編】
#001 はじめに


■レイ オオヒナタ
19○○年生まれ、東京都出身。八王子に屹立する某美大に、不真面目に通う院生。WEB2.0環境の恩恵を受けて以来、本格的に海外ボクシングを見始める。ジョイス・キャロル・オーツの『On Boxing』やブコウスキーに触発され、ボクシングと芸術の関わりについて日々考察中。約2分ほどプロボクサーを志した過去もあり…。


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