酔いどれ前のひとりごと vol.102 ずるずる負け

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vol.102 ずるずる負け



 序盤はそこそこで、中盤にさしかかるあたりから雲行き怪しく、素人目にも旗色が悪くなってゆくのがわかる。しかし勝負はどこでどうなるかわからない。一発のパンチで形勢が変わったり逆転KOがあったりする。だから劣勢であってもあきらめてはいけない。

 で、結局、前へ出ているつもりでも腰は引けていて、練習を積んだパンチは届かず当たらず、知らず知らずクリンチにいってしまう。ブレイクの途端にパンチをもらって、なに、こんなもの効きやしないと、気迫だのみに手を出せば、さらに当てられて、ならば距離をとって間合いをはかってと足を使えば、はてさて、攻めこまれて逃げ場を失う始末に、やむなくまた抱きつく。

 こんなはずではない、なんのために苦しい思いに耐えてきたんだと、つのるダメージに闘志は迷路をかけめぐり、時間ばかりが過ぎてゆく。

 そうこうするうちに最終ラウンドで、泣いても笑ってもなんて、誰が泣くのか笑うのか、歓声が高まったって、それで状況が変わるならとうに変わってたはずじゃないかと、言わぬが花の散りぎわ美しくと焦ってみても、展開は変わらず、ときどき当たるのはパンチじゃなくて寺の鐘ならぬ己れの頭で、ゴーンゴーンと夕焼けこやけに煩悩の鐘が鳴るやらカラスが鳴くやら目がくらむやら。

 もしやもしやのクライマックスはついに訪れず、無情のゴングが打ち鳴らされる。

 判定にもつれこんだなんてウソはやめてくれ、舌がもつれるから。倒されずに逃げおおせただけさ。ダメ押しの採点が出ても、よくやった、がんばった、無念、惜敗、悲願ならず・・・さらにこのごろじゃ“感動”という重宝な文句も発明されて、勝っても負けても“感動”。

 怖くもないのに鳥肌が立ったなんてぬかす特異体質人間もあらわれたりして、言葉はどこまでもありがたい。


 日本人の世界挑戦試合に限った話として、100の敗戦には100の色があるに違いない。しかしそれは当事者だけであって、一般人には100の敗戦には2つの色しかない。

 上に記した、ジリ貧での判定負け《A》と、序盤であっけなく終わってしまうKO負け《B》と、この2色しかない。

 ミスマッチだの気の毒にも日本の恥だのと揶揄されたりする《B》は、数は少なく印象に残るものもあり、これは今は触れない。

 なにを言うか、ほかにもあるぞと御仁のめくじら、ごもっとも。

 真っ向から打ち合って、相手のパンチが先に当たってしまったという試合、攻めて攻めてあと一歩のところまで追い込んだ試合、あわやのシーンを作りながら最後は力負けした試合。そういう試合は見る者の心情が揺すぶられるから、とりあえずは敗戦と言わずにこれまた脇へ寄せておく。


 いったい何のためにリングにあがったんだろう、勝つためじゃないのか、世界王者になって新たな風を吹かせるためじゃないのか。なのに、そんな戦いぶりじゃ何も起こらない始まらない、なぜ出ない向っていかない、対峙した瞬間に相手の強大がわかったとしてもそれならそれ、勝つか負けるか、しっかり挑んで、当たって砕けちゃ悪いのか――そんなことを思ってしまうのが《A》で、判定まで粘れず途中でストップがかかっても同列と見なす。

 世界戦挑戦での負け試合の多くはこの《A》で、思うに任せない歯がゆさの繰り返しに、僕はひそかに「デジャヴマッチ」と呼んでいる。数えたわけではないけれど優に100を超えているだろう。そのデジャヴマッチたちを、わが来しかた行くすえにかさねて、これじゃいかんとおもうばかりの夏の夕暮れ。


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vol.100 日本最高試合その3
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vol.72以前 夜明け前,カメダ・ワールド,重箱のスミ~2006年1月号,逆転の貴公子,ほんの少しの恐怖,ジャブを出せ,ガッツ石松 vs ロベルト・デュラン~もちろん架空~エキジビション,最強という名の幻想,年間最高試合について,これぞ伝説,アリ、フレージャー、そしてフォアマン,だけどファイティング原田は好きだった,なんとなく空想対決[G.フォアマン vs B.サップ],拳聖....etc.


■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

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