いやんなっちゃうぜ 【酔いどれ前のひとりごと vol.127】

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vol.127 いやんなっちゃうぜ


 言っても詮ないことだけれど、家庭用ビデオが発明されて、それはそれで喜んだものの、パソコンが普及して、それはそれで便利になったものの、DVDができて、このあたりから実は雲行きが怪しくなっていたのかもしれない。

 前後して衛星放送が始まって映像資料がどんどん増えていった。録りためたビデオテープをせっせとDVDに移し変えていって、ハードもソフトも人並みに使いこなせるようになったかなと息つきかけたら、デジタル放送だのブルーレイだのと始まった。

 今じゃテレビつければ頼みもしないのに右隅に“アナログ”なんて表示が出る、借金の取りたてか国賊のレッテルみたいに。

画像 電気店へ行けばデジタル商品しか置いていない。先の「パッキャオvs.コット」も、ライヴじゃ見られなかった。WOWOWよ、お前もアナログを差別するのかって思った。

 カネがないんだ。新しいことへ投資しようという気持ちが弱ったせいで、カネがないんだ。

 どこまで行っても新しいものに追い抜かれて、追いつこうとして追いついて、すぐにまた新しいものに抜かれてと、そのたびにハードの操作方法やらソフトの取り扱いやらこまごましたことを覚えなおすハメになってと、そんな繰りかえしじゃねえかと、年くったぶん、疑心暗鬼がひどくなる。

 ネット覗けば、こっちが長い時間をかけて集めた映像が、ばかみたいな安値で一気に入手できる。少しばかりのカネと根気があればわずかの時間のうちにレアな映像までも手に入れることができる。

 それはそれでいいことなんだろうが、ボクシング好きな若い人にとってそれはそれでほんとにいいことなんだろかと、ねたみ大半でちらと思うが所詮ひとごとだ。

 せわしない時間にへだてられて、純粋にボクシングを見るという情熱が薄れても、骨董や切手を集めるようにボクシング映像を集めたっていいんだし、ネット配信映像を広く浅く見ながら各種データと照合してああじゃこうじゃご意見述べたっていいんだし。

 ひとにかまってる場合じゃない。おれはどうすんべ。ぎりぎりになればデジタルにするんだろうが、なんだかシャクだ。すぐまたなんか新しいものが現れて、方向の修正を余儀なくされるんじゃなかろか。女に振り回されて、ひとり勝手に悶々とする感覚に似ている。

 そう思うと、ブルーレイとやらも女の姿に見えてきて、その女は可愛い子ちゃんか婀娜(あだ)な年増か好みが分かれるとしても、間違っても優しい女ではない、そんなことはわかってるけれど、やけに性欲を刺激しやがる女がこっちに秋波を送っているようで・・・・てやんでえ、もう騙されるもんか、とイキがってはみるものの、素通りできずについまたふらふらと色香に迷って、ばかな野郎だ。

 またおんなじような痛い目にあうだけだろに、よせ、と声はするようだけれど、情ねえもんで、やっぱり性懲りもなく助平心で近づこうとする。そのために無理して、カネこしらえたり時間作ったり好きなことをあきらめたり人にウソついたりして。目先の望みがかなったふうでもすぐさま突き落とされるやも知れねえのに。

 追い討ちかけるように、IT世代の活きのいい売り場係員が、ディスクの中身はなんかの拍子ですぐダメになりますよ、ハードディスクだって寿命がありますからそんなに長くは持ちません、バックアップを取っておくくらいしか手立てはありませんが粗悪なディスクだと数カ月でデータは消えます――なーんてこと当り前の調子で言われた日にゃ、どうすりゃいいのさ。保存状態によりますけれど、なんていう決まり文句があること自体、そもそもたいした保存なんかできやしないのだ。

 昨日笑っていたのに今日さよならも言わずに去っていく。モテる男デキる男にゃいくら言ってもわからんだろが、そんな憂き目を女ばかりか機械にまで見なきゃならんのか。

 ったく、いやんなっちゃうぜ。


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■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。

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