ミラクル 【酔いどれ前のひとりごと vol.143】

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vol.143 ミラクル


 1984年11月3日、WBC世界ライト級タイトルマッチ、エドウィン・ロサリオ3度目の防衛戦。相手は、1年半前の同級王座決定戦で判定に下したホセ・ルイス・ラミレス。

 どうもなあ、試合そのものを書こうとすると、あじけなくなっちゃったり、ひとり酔っちゃったり、評論家ぶっちゃったりしちゃってなあ、困る。あれからもう30年かあ。僕が見た最も印象深い逆転試合だった。

 1982年暮れにビデオデッキを買って、2ヘッド仕様で15万円だった。2ヘッドがどんなものか、標準で録画したものを早送りで見ようとしても、画面がぐしゃぐしゃに歪んで見えないんだよね。3倍速のものなら3倍速の動きで画面が見られたけど、あの頃のビデオテープは3倍録画したら3カ月もすると横線が幾本も入ってきて、画質がすぐ劣化してしまった。生テープ1本2000~3000円もしたのに。

 ま、それはともかく、当時は海外試合のテープを買い漁っていた。これまた高額だったけど。その中の一本にこの試合があって予備知識なしで見た。

 速いなあ強いなあ巧いなあ。2回まで王者の動きに感心していた。テープに添付されている資料には挑戦者の4回TKOとなっている。あれと思ったけど、勝者敗者を間違えて印刷してしまったんだなと合点して、3回を見る。挑戦者が後半に盛り返したようだったが、すでに2度のダウンを喫している、次の4回で倒されるんだろうと、まだ落ち着いて見ていた――。

 ありがたいことに現在、ネットでこの試合が見られる。



 逆転というなら1990年の「チャベスvsテーラー」や、1994年「カストロvsジャクソン」、2001年「コラレスvsカスティージョ」、あるいは1973年「大場vsチャチャイ」、1989年「高橋ナオトvsマーク堀越」……

 といくらでもあって、人それぞれ、その試合を見たタイミングや個々の状況なんかもあって、いずれが一等か、そのワケは、尋ねれば尋ねたぶん面白い話が聞けそうだが、なんて言うのかなあ、この試合は、教師が子供たちに「だから皆さん、最後まであきらめないで頑張りましょう」と諭す教材に、う~ん、使えば役立つかなあ、違うなあ、そうじゃないよなあ。そんなんじゃないよなあ。じゃあなんなんだよって、う~ん、実はわからないんだけどさ。

 最後の場面は僕には事件事故の瞬間に出くわしてしまった感じだったけど、いやはや誰がこんな結末を予測したろうか、こんな展開になるなんていったい何者の仕業なのか。

 勝利したラミレスは、ルーベン・オリバレスやアレクシス・アルゲリョはじめ稀代のボクサー群と紙一重の勝負を続けた、とてつもないボクサーで、ロサリオとの初戦も判定負けしたがどちらの手が上がってもおかしくない内容に見えた。

 だからラミレスにとって、ロサリオは戦いづらい相手ではなく、序盤の劣勢をはねかえして信じられないような逆転KOをしたけれど、それはハタの見る目で、本人にすればオレのほうが強いからオレが勝った、それだけのこと、だったかも。

 ミラクルの正体は案外こんなところだったりするのかもしれないけど、あらたしき年のめでたさに、この一戦を思い起こして、世界はミラクルであふれているとクダを巻いている。


▽バックナンバー
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vol.139 負け知らず
vol.138 神の左
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vol.136 目の前の人――勝間和雄
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vol.100 日本最高試合その3
vol.99 日本最高試合その2
vol.98 日本最高試合その1
vol.97 たわごと・ざれごと・えそらごと Part 2
vol.96 たわごと・ざれごと・えそらごと
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vol.73 重箱のスミ~2006年2月号
vol.72以前 夜明け前,カメダ・ワールド,重箱のスミ~2006年1月号,逆転の貴公子,ほんの少しの恐怖,ジャブを出せ,ガッツ石松 vs ロベルト・デュラン~もちろん架空~エキジビション,最強という名の幻想,年間最高試合について,これぞ伝説,アリ、フレージャー、そしてフォアマン,だけどファイティング原田は好きだった,なんとなく空想対決[G.フォアマン vs B.サップ],拳聖....etc.

■酔田振男(よった・ふりお)
1953年生れ、東京都出身。街頭テレビで藤猛vsニコリノ・ローチェを見てボクシングに惹かれ、観戦通いを始める。今はもっぱらテレビ観戦。ここ数年は週2回のキャバクラ通いに余念がなかったが、年のせいか近頃控えめ。(有)トランス企画社長。独身。


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